「株式会社ポケモン」という社名は、この会社が何をする会社か、他のどんな会社よりも明確に表現していると思います。この社名を聞いて、ドラえもんの仕事をしている会社だと思う人はいませんよね(笑)。その名のとおり、株式会社ポケモンは、ポケモンの仕事をする会社です。逆に言うと、ポケモン以外の仕事はやらない会社。敢えて、会社の役割と機能をはっきりさせるために、そう名付けました。
よく、取材等で「株式会社ポケモンは、ポケモンの何をする会社なのですか?」と聞かれるのですが、私は「株式会社ポケモンは、ポケモンのプロデュースをする会社です」と答えています。すると、ちょっと首をかしげて、「ポケモンのプロデュースとは何でしょうか?」という質問をされます。そんなとき、私が「タレント事務所みたいなものを想像してみてください。所属しているタレントたちに、どんな仕事を与えて、どんな才能を伸ばし、どんな風に育てていくか、がタレント事務所のプロデュースですよね。同じように、株式会社ポケモンには、ピカチュウやリザードンといったタレントがいて、彼らをどんなメディアに登場させ、どんな商品にし、どう育てていくかを考え、プロデュースするのが我々の仕事なんです」と説明すると、ある程度は理解してもらえるようです。でも、これはプロデュースという仕事の一部をわかりやすく表現しただけで、すべてではありません。
もう少し正確に言うと、「ポケモンをプロデュースする」とは「ポケモンが最も『魅力的な商品』になるように導くことであり、その商品が売られるにあたっては、ビジネスとして最高の結果をもたらすようにあらゆる調整をすること」です。
では、『魅力的な商品』とは何でしょうか? ずっと持っていたいと思うようなもの、遊びはじめたらやめられないもの、あるいは安くて便利なものなど、人それぞれで考えかたや感じかたが違うので、一概には言えませんが、私は「それを手に取った人が、他人にも薦めたくなるような商品」と考えています。
魅力的な商品であることは、ビジネスの最大化へとつながる第一歩です。魅力的な商品だからこそ、多くの人々の支持を集め、ビジネスとしてより高いステージへ到達することができるのです。魅力的な商品をつくり、ビジネス全体を最大化するために、商品の製造から広報・宣伝までのすべてについて深く関わること。それがプロデュースであり、人間としての総合力が求められる仕事と言ってもよいかもしれません。
この、プロデュースの結果として、「ポケモン」というブランドが価値の高いものとして評価され、多くの人々に支持されていく。これが、ポケモンのブランドマネジメントであり、この“プロデュース”こそが、株式会社ポケモンのやるべき仕事だと考えています。
ポケモンは1996年に誕生しましたが、よく「人気の秘密は何か」「継続して愛される理由は何か」と尋ねられます。私は「収集・育成・交換・対戦」といったポケモンの普遍的な仕組みが我々の強みであり、長く愛される所以であると捉えています。ゲームに限らず、どのような商品やサービスでもこの点は共通していますし、国や地域を越えてプレイヤーの共感を得られる要素です。デバイスや通信環境の変化に合わせて進化をしながら、子供の頃に誰もが経験したであろう昆虫採集や植物の栽培や動物の飼育のような興奮と体験を、「ポケモン」を通して多くの人々に体感していただけることが、我々にとって極めて重要なことなのです。
私自身の経験ですが、最初の『ポケットモンスター 赤・緑』をプレイしたとき、クチバシティでゲーム中にいる人物キャラクターがポケモン交換を申し込んできて、「おしょう」というニックネームのカモネギをもらったことが、今でも強く印象に残っています。そして、それと同じように現実世界の友人とポケモン交換をすると、ゲームの中の人物と現実の人物が同じ役割を持っていることがわかり、仮想世界と現実世界を行ったり来たりする不思議な体験が生まれました。やがて、Wi-Fi通信で世界中のユーザーとポケモン交換ができるようになり、国や地域、そして文化を越えて、ポケモンが媒介となった交流が生まれています。また、国内外にあるポケモンセンターには、今、商品を求め、ポケモンの配信やバトルを求め、あるいは友人を求めて、多くのポケモンファンが集うようになりました。 そして『Pokémon GO』では現実世界でポケモンを探し求めることができるようになりました。
社是に掲げている「ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること」は、決して理想ではなく、すでに目の前に起こりつつある現実です。すべての人にそれを実感していただけるよう、よりよい仕組みを我々は構築し、発信し続けていきます。
代表取締役社長・最高経営責任者
1957年三重県鳥羽市に生まれる。1983年筑波大学大学院芸術研究科修了。
ゲームプロデューサーとして数々のゲームソフト開発に携わり、1995年に株式会社クリーチャーズを設立。1996年には後に連なる全ポケモン関連商品の原点となった『ポケットモンスター 赤・緑』をプロデュースし、その後、ポケモンのビデオゲーム全作品にプロデューサーとして携わる。1998年、ポケモンセンター株式会社(現・株式会社ポケモン)設立と同時に代表取締役社長に就任。現在は、株式会社ポケモンにおいて、ゲームのほか、カードゲームや映像・アプリなどのプロデュースとブランドマネジメントを手がける。
第13回マルチメディアグランプリ1998 『MMCA特別賞』
文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門審査委員、06年同委員主査
デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'07/
第13回AMD アワード『功労賞』
CEDEC AWARDS 2011 『特別賞』
日本ゲーム大賞2011 『経済産業大臣賞』
日本イノベーター大賞2016 『ソフトパワー賞』
日本ゲーム大賞2017 『経済産業大臣賞』(Pokémon GO)
2019年度環境芸術学会 『学会大賞』
テレビ東京「カンブリア宮殿」
テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」
テレビ東京「戰士の逸品」
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」
テレ朝チャンネル「津田大介 日本にプラス」
J-WAVE「RAKUMACHI BIZ8」
J-WAVE「TOPPAN Futurism」
Bloomberg 日本経済新聞 読売新聞 朝日新聞 毎日新聞 産経新聞 経済界
ダイヤモンド・オンラインほかTV・新聞・雑誌・ウェブなど多数
「CEDEC2010 特別招待セッション『人を楽しませるプロデュース』」
(CEDEC)
「Healthcare x Gamification Forum ~ゲームによるヘルスケアの進化~」
(横浜市立大学 東京藝術大字 アステラス製薬)
「環境芸術学会第20回記念大会『環境と芸術1964 TOKYO 2020』」
(環境芸術学会)
村上龍 著「カンブリア宮殿 村上龍×経済人II」
(日本経済新聞出版)
吉岡直人 著「ゲームクリエーターが知るべき97のこと」
(オライリージャパン)
中川翔子 著「ポケモンが生きる意味を教えてくれた」
(小学館)