2024.11.27

工芸がつくりだす、ポケモンの新しい姿

1. 工芸の技術との出会い

美術館の展示室にただようのは、繊細な工芸の技によって息を吹き込まれたポケモンたちの気配。2023年3月から始まった展覧会「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」は、国立工芸館(石川県金沢市)での開催を皮切りに、国内外の各地を巡回しています。

なぜ、一見まじわりのないポケモンと工芸をかけ合わせたのか? ポケモン×アート推進室の担当者はこう語ります。

「工芸は、土や木、金属など、さまざまな自然の素材を活かし、匠の技法を持って作品をかたちづくります。そんな工芸と、仮想世界のいきものであるポケモンが混じり合えば、とても面白い化学反応が起こるのではないか……そんな期待があったのです」

福田亨《雨あがり》 2022年 個人蔵 Ⓒ福田亨 〔撮影〕斎城卓

ポケモンの担当者は、東京国立近代美術館工芸館(現・国立工芸館)に相談を持ちかけました。話を受けた館長の唐澤昌宏さんは「工芸を幅広い世代に知ってもらうきっかけがつくれるかもしれない」と感じたといいます。

東京国立近代美術館工芸館:東京国立近代美術館の分館として1977年に東京・北の丸公園に設立。2020年、地方創生施策の一環として石川県に移転。国立工芸館に改称。

「工芸作品に関心を持つのは、比較的年齢の高い層です。一方、ポケモンは若い世代を中心に幅広く支持されています。今回の取り組みは、若い世代にも工芸の世界に入門していただくとてもいい機会になるのではないかと考えました」(唐澤さん)

まったく新しい取り組みとしてゼロから議論を重ね、今回の美術展が実現しました。

2. ポケモンとアーティストの「真剣勝負」

両者が大切にしたのは、本格的な工芸の展覧会を開催することでした。

ポケモンを表層的に捉えただけのようなものではなく、アーティストそれぞれがポケモンのコンセプトをしっかりと咀嚼し、テーマやモチーフ、素材や技法などを考え抜いてできあがった作品を実現したい。そして、そんなポケモンたちの作品を通して、さまざまな工芸手法の魅力を知ってもらう場にできればと思ったのです

アーティストの選定は、国立工芸館とポケモンが意見を出し合い、人間国宝から新進気鋭の若手まで20名が参加することになりました。

そのなかには、今までポケモンに一切触れたことのないアーティストもいます。この美術展への参加が決まってから、ビデオゲームをプレイしたり、アニメを鑑賞したり、「ポケモンずかん」を読み込んだりと、さまざまなアプローチで理解を深めていきました。

今回の美術展では、コンセプトのひとつに「真剣勝負」があります。ポケモンが技を駆使して繰り広げる「ポケモンバトル」は、シリーズの根幹を担う要素です。

一方、アーティストは自身が選んだ素材と向き合います。そして、そこにどんな技法や意匠を施せば、ポケモンに対する自らの解釈や想いを表現できるのかを考え、創作します。そんな彼らがポケモンに真正面から向き合い、本気で作品づくりに挑む姿は、まさに「真剣勝負」そのものでした。

3. 多角的な視点で捉えられたポケモンたち

「ポケモンは仮想世界の生きもの。画面を通して実体のない存在を観察し、想像を膨らませる作業は、アーティストにとって新しい取り組みだったのではないかと思います。それぞれの解釈で捉えられたポケモンたちが作品になる過程は、私たちに新しい発見をもたらすすばらしい体験でした」とポケモン×アート推進室の担当者は目を輝かせます。

モチーフとなるポケモンは、アーティスト本人が選んでいます。本美術展のキュレーションをつとめた国立工芸館主任研究員の今井陽子さんは、次のように振り返ります。

「今回の参加アーティストは、工芸ならではの素材と技法を精査して自身の作風を築いた方ばかり。そのため、魅力的に感じるモチーフは、アーティストごとにおのずと異なると予想していました

その思惑どおり、今回の美術展ではあらゆるポケモンが選ばれています。いくつかはモチーフが重なりましたが、それぞれの表現の差異が際立ち、興味深いラインナップとなりました。

ポケモンの姿かたちから存在感までを見極めた作品、ゲームの世界での主人公の冒険やその舞台をなぞる作品、ポケモンのわざをモチーフにした作品等々、実に多様な「ポケモン×工芸」作品が姿をあらわしたのです。

4. ファンの垣根を越えた交流がうまれる場

美術展には、ポケモンファンと工芸ファンの垣根を越え、さまざまな世代が来場しています。

「なかでも印象的だったのは、親子三世代での来場者ですね。工芸に詳しい大人がお孫さんに技法を説明して、逆にお孫さんはご家族にポケモンの特徴を説明して、といったやり取りが微笑ましく、印象に残っています」と、唐澤館長は顔をほころばせました。

城間栄市《琉球紅型着物「島ツナギ」》2022年 個人蔵 Ⓒ城間栄市 〔撮影〕斎城卓

今井さんは、本美術展ならではの楽しみ方を次のようにまとめてくれました。

作品をいろんな角度から鑑賞してみると、今まで気づかなかったポケモンの姿が浮かび上がるかもしれません。見方や味わい方は無限です。来館されたみなさまが、それぞれの“ポケモン✕工芸”をゲットしてもらえるとうれしいです」

現在の作品数は約80点。今後は作品をさらに増やしながら、巡回展を続けていく予定です。

トップ画像:今井完眞《ドラパルト》2025年 個人蔵 Ⓒ今井完眞 〔撮影〕中戸川史明

本作品はポケモン×工芸展―美とわざの大発見―長崎会場(長崎歴史文化博物館)で初公開

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